ビリーの思い出
ずいぶん昔の話、友人と暮らしていた頃の事。
彼女は24時間営業している喫茶店でウェイトレスをしていた。仕事が終わるのは夜9時。私は時々仕事終わりにその店へ行き、彼女の仕事が終わるまで待つことがあった。その店にはジュークボックスがあって、私はその中の一曲がお気に入りだった。
曲の終わりにバイク?車?の音が遠ざかっていく感じが好きだった。陽が落ちて店の前には車通りの多い道、ヘッドライトがサッとかすめていく。窓から見えるその景色と夜の匂いと音楽が妙に合っていて心地よい夜にしてくれた。
ある日、その店に来ていた綺麗なお姉さんと話をする機会があった。何度か顔を合わせているが話をしたことはなかった。時々会うねと向こうから声をかけてきてくれた。少し寂しげでそれが大人っぽく綺麗に見えた。
友達と隙間風が入る同じ部屋で暮らし、共に銭湯へ通い時々散歩した。お金はなかったし先がどうなるかなんてわからなかった。けれど不安に思わなかったのは若さゆえか、それとも楽しめるものがたくさんあったからか。