彼女が欠点だと思っていたとこが好きだった
彼女とは映画と音楽の好みが近くて、お金をためては二人であちこち遊びに行った。寮を出てから、二人で部屋を借りて一緒に暮らした。
映画と音楽の好みは近いのに、それ以外はまったく逆だった。イヤリングを買おうとしたら彼女は白いパール私は黒のオニキスを選び、エプロンを買おうとしたら彼女は淡い色のレース私は水がかかるのが嫌でビニールのエプロンを選んで、全然違うねって笑った。
そんな彼女がよく言ってた。「笑ったりお礼を言ったり謝ったり、言いたいことが言える性格だったらよかったのになー。時々あんたが羨ましい」私は言いたいことが言える性格ではないよと言ったのに、彼女にはそうは思わなかったみたいだった。
本心と違っててもその方がスムーズにいくなと思えば、お世辞のひとつや謝罪のひとつぐらいは言える。ただそれだけ。
彼女はありがとうと言う代わりに、恥ずかしそうにする。泣きそうな時は表情が消える。腹が立ってる時は目でわかる。苛立って我慢して爆発しそうだなと思った瞬間に、バンッと机をたたいたりする。周囲はいきなり切れたと思ってびっくりするけど、我慢してたよねってのは見てるとわかる。
私はそこが好きだった。私のように適当に人に合わせてると、褒められてもお世辞だなと思って素直に信じられない。シャイで不器用で正直な彼女の言葉は不思議と信じられた。彼女にそう言ったら「それでも交代できるなら変わりたいわ」と言われた。
仕事の都合で彼女が別の町へ引っ越し、それでも時々話はしてた。なんで仕事も恋愛も上手くいかないんだろうと言われるたび、何と言っていいか解らなかった。私も似たようなものだし、皆、悩むことだよなと思ってた。
それから数年、家を買って結婚する事にしたと話した時「すぐにだめにならないといいね。ローンが払えなくなったりして」と言われた。腹は立たなかった。今までの彼女ならそんな事は言わない。どんな気持ちであの言葉を言ったのだろう。それ以上言葉が出てこなくて、聞かなかった事にしてしまった。
お正月、彼女に出した年賀状は戻ってきた。
あの時「お祝いぐらいは言って」と言えば、彼女は心の内を吐き出しただろうか。電話をすれば、もしかしたら繋がったかもしれない。でも電話をする気持ちにはなれなかった。彼女の声が聴きたいなー。そう思う日がいまだにある。けれど二度と聞くことはないだろうな。